研究概要 |
本研究は、昆虫免疫系関連遺伝子の多様化を考察するために、ショウジョウバエ抗菌タンパクセクロピン遺伝子群内に含まれる雄特異的抗菌タンパクアンドロピン遺伝子に着目し、分子進化・分子遺伝学的手法を用いて、その進化の道筋と機能分化のメカニズムを明らかにすることを目的としている。既に、アンドロピンはセクロピンよりも進化速度が早く、キイロショウジョウバエ近縁種間において、推定されるアミノ酸配列が大きく異なること、その進化には正の自然選択の作用が指摘されている。本年度は、アンドロピンの正の自然選択の要因を探るために種間における機能解析を遺伝子レベルとタンパクレベルの双方から行った。 1.アンドロピン遺伝子発現に関する種間比較 melanogaster species subgroupに属するキイロショウジョウバエおよびその近縁種6種について、アンドロピン遺伝子発現のあり方をRT-PCRを用いて調べた。キイロショウジョウバエ近縁6種では全て、遺伝子発現パターンはキイロショウジョウバエ同様雄成虫生殖器官に限定されており、雌での遺伝子発現は観察されなかった。 2.アンドロピンタンパクに関する種比較 アンドロピンのアミノ酸配列の保存度が種間で低いことから、タンパクの抗菌活性が種間でも保持されているかどうかを明らかにするために、キイロショウジョウバエと近縁種テイシェリショウジョウバエのアンドロピンタンパクを人工的に合成し、液体培養法とプレート培養法の2通りの方法を用いて、タンパクの抗菌活性を調べた。キイロショウジョウバエアンドロピンでは、グラム陽性菌に対し抗菌活性があることが既知であるが、テイシェリショウジョウバエアンドロピンでもグラム陽牲菌(Micrococcus, Bacillus, Staphylococcus)に対して抗菌活性が観察された。Bacillusに対しては、テイシェリショウジョウバエアンドロピンの方がより低濃度で抗菌作用が見られたことから、ショウジョウバエ種間において、標的となる菌への感受性に種特異性があると考えられた。さらに調査する菌種を増やすことで、その特異性のあり方が具体的に見えてくると考えられた。
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