研究概要 |
冬眠哺乳動物シマリスで発見された冬眠特異的タンパク質HP-20,-25,-27はN末端側にコラーゲン様の繰り返し配列をもつ,同一ファミリーに属するタンパク質である.これらの遺伝子は,リス科の冬眠動物であるシマリスやジリスでは肝臓特異的に発現し,冬眠に伴う発現調節を受けており,冬眠時にはその発現は抑制されている.一方,非冬眠動物のタイワンリスでは偽遺伝子化しており,発現していない.本研究では,これら冬眠特異的遺伝子の冬眠に伴う転写調節機構およびタイワンリスにおいて偽遺伝子化している原因の解明を目的として解析を行っている.本年度は,シマリスHP-20遺伝子とタイワンリスHP-25遺伝子について,遺伝子クローンを単離し,遺伝子構造と5'上流配列の肝細胞におけるプロモーター活性について解析を行った. シマリスHP-20遺伝子も,HP-25遺伝子同様,3つのエクソンからなり,遺伝子構造がよく保存されていることから,これらの遺伝子は遺伝子重複により生じたものと推測される.HepG2細胞を用いたプロモーター解析の結果,HP-20遺伝子の肝細胞での転写には転写開始点から-57までの5'上流領域が必要であり,その転写活性化にはHNF-1が関与していることが明らかになった. タイワンリスHP-25遺伝子も,シマリスHP-25遺伝子同様,3つのエクソンからなり,遺伝子構造はよく保存されていたが,翻訳領域内には挿入変異があり,読み枠は破壊されていた.シマリスHP-25遺伝子の肝細胞での転写には-80までの5'上流領域が必要であり,その転写活性化にはHNF-4が関与しているが,タイワンリスHP-25遺伝子の対応する領域はプロモーター活性を殆ど示さないと共に,HNF-4結合配列に対応する領域には塩基置換が存在し,HNF-4は結合しなかった.従って,この変異がタイワンリスでHP-25遺伝子が発現していない一因であると考えられた.
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