真核生物のゲノムにある大規模な染色体の重複領域を探すため、ゲノム配列データを解析し、さらにそこにコードされている重複遺伝子の分子進化を研究した。今年度は特に、重複領域検出のためのアルゴリズム開発を行い、さらに実際にショウジョウバエゲノムにみられる重複領域の分検出を行った。その結果、ショウジョウバエのゲノム中には33組の重複領域がみつかった。ゲノムの全配列が決定された酵母と線虫でも数十組の重複領域がみつかっていることから、真核生物ゲノムでは大規模な重複領域が一般的に見つかると考えられた。重複領域の分布様式は生物によって異なっていた。酵母ではそのほとんどが異なる染色体上に位置しており、ゲノムの倍数化が過去に起きたことが示唆された。それに対して線虫やショウジョウバエのゲノムにみられる重複領域は、その多くが同一染色体上の近接した位置にあり、タンデム重複に類似した機構で重複領域が生じたことが示唆された。また、ショウジョウバエの重複領域は酵母や線虫の場合とは異なり、そのほとんどが非常に古い重複領域であることが重複遺伝子間のdivergenceから推察された。1〜2個の遺伝子を単位とする局所的な重複を除けば、比較的最近に生じた重複領域はみつからなかった。このことは、過去数億年にわたって、ショウジョウバエではゲノム領域の重複に対して負の淘汰が働いたことを示唆しているのかもしれない。 今後は、重複領域にある遺伝子の分子進化学的な解析と機能分化の問題について、より詳細な解析を進める。さらに、異種間の相同な染色体領域(シンテニー領域)を決定し、その分子進化を研究する予定である。
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