研究概要 |
多くの生物で、大きな親ほど大きな種子(卵)を作るという一般傾向が知られている。しかしこの傾向は、最適な種子サイズは親の資源量に依存しない(Smith and Frewtell,1974)という予測に反する。この一般傾向を説明するためいくつかの仮説が提唱されているが、それらはいずれも、ある特定の生物のみに当てはまるものでしかない。 種子の発達に及ぼす生理学的要因(資源吸収速度のシンク制約と維持呼吸による貯蔵資源の目減り)を考慮した種子生長モデルを提唱した。このモデルに、親組織(維管束の末端)からそれにつらなる種子への資源移動速度に制約があるという仮定を加えると、上記の一般傾向が説明できることを示す。また、カタクリを用いた予測の検証結果も行った。 【仮定】貯蔵資源を用いてN個の種子を作る。各種子の資源吸収速度は、その時点での種子サイズsと、親組織からの資源移動速度の上限Lに依存する:ds/dt=Min[rs,L]-ms(rは正の定数、mは維持呼吸速度)。貯蔵資源を消費したら各種子の生長は終わり、その時点での大きさが最終的な種子サイズSとなる。種子の発芽定着率(Sに依存)×Nが最大となるSを計算した。 【予測】Lが大きいほど最適な種子サイズS^*は大く、mが大きいほどS^*は小さい。つまり、大きな親はどLが大きく、mは親のサイズに依存しない(あるいは、正の依存性があったとしてもその依存性が小さい)ならば、大きな親ほど大きな種子を作る。 【検証】Sakai(1998)のカタクリ果実の生長データを再解析し、モデルのパラメーターを推定した。その結果、大きな親ほどLは大きく、mは親サイズに依存しなかった。また、Lが大きい親ほど種子は大きく、mが大きい親ほど種子は小さかった。これは、「大きな親ほどLが大きいために種子も大きくなる」という予測と一致していた。
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