冬季一年草の生活環を制御する第一義的要因である発芽と開花のタイミングの調節機構を解明するために以下の2項目について研究を実施した。 (1)冬季一年草の開花タイミング調節における未発芽種子バーナリゼーションの生態的意義 ナズナの生活環制御におけるバーナリゼーションの役割を調べた結果、(1)ナズナは登熟期種子バーナリゼーション、未発芽種子バーナリゼーション、発芽後種子バーナリゼーションおよび緑植物バーナリゼーションの性質を有しているが、未発芽種子バーナリゼーションの花成誘導効果が最も大きいこと、(2)未発芽種子バーナリゼーションが誘導された埋土種子から春に発芽した個体は速やかに開花して一年生型となるが、当年度に生産された種子から春発芽した個体は開花にいたらず夏季に枯死するか越年生型となること、が明らかとなった。以上から、ナズナの一年生型生活環の成立にとって未発芽種子バーナリゼーションが重要な生態要因であると推察される。 (2)冬季一年草の種子発芽タイミング調節における高温発芽阻害の生態的意義 ミドリハコペ埋土種子の上限温度は、夏期間、土壌温度範囲の下限値よりも常に数℃低く推移した。秋口になると、発芽の温度範囲と土壌温度の範囲とがオーバーラップし、野外での発芽フラッシュが起こった。アブシジン酸生合成阻害剤を種子に処理したところ、発芽の上限温度は約5℃高くなり、夏期間のいずれの時期でも野外での発芽が可能となった。次に、発芽生理の実験材料とされているレタスを用いて種子内のアブシジン酸量に対する発芽温度の影響を検討したところ、発芽適温においてレタス種子のアブシジン酸含量は速やかに低下したが、発芽が阻害される温度では高いレベルに保たれた。これらの結果から、冬季一年草の埋土種子は、アブシジン酸レベルの調節を介して数℃の精度で温度をセンシングすることで、発芽タイミングを決定していると推察される。
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