冬季一年草の生活環を制御する主要因である発芽タイミング゛の調節機構を解明するために以下の研究を実施した。 1アブシジン酸の生合成、代謝、感受性を介した種子発芽の温度応答機構 冬季一年草ミドリハコベの秋発芽のタイミングは、夏期間、埋土種子の発芽の上限温度を土壌温度範囲の下限値よりも数℃低く保つことで決定されている。レタスをモデル植物に用いた研究の結果、発芽に不適な高温に置かれた種子は、植物ホルモンのアブシジン酸の生合成と感受性を高めることが明らかになった。また、ジベレリンは代謝を促進することで種子内アブシジン酸レベルの低下に働くが、温度は内生ジベレリンレベルに影響を与えないことが示された。冬季一年草の種子は、アブシジン酸の生合成、代謝、感受性を介して温度応答することにより、最適な発芽の季節タイミングを決定していると考えられる。 2レタスのアブシジン酸生合成系遺伝子のクローニング 冬季一年草の種子発芽の季節性がアブシジン酸を介した発芽の温度応答によって決定されていることが明らかになったので、アブシジン酸生合成の鍵酵素の一つである9-cisーepoxycarotenoid-dioxygenase(NCED)をコードする遺伝子をクローニングした。レタスmRNAからトマトとトウモロコシのNECD遺伝子の保存領域を参考にしてRT-PCRを行い、602bpのcDNA断片を得た。さらに3'RACEによってDNA下流域567bpをクローニングした。このcDNAの推定アミノ酸配列は既知のNECD遺伝子と約70〜80%の相同性があり、ジオキシゲナーゼ活性に必要な保存領域も含まれていた。この結果から、得られたDNAはレタスのNECD遺伝子部分鎖長であると考えられる。冬季一年草の生活環進化に本遺伝子発現の温度応答性獲得が関与しているかどうかの解析が待たれる。
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