植物は季節という気温の著しい年較差に適応して短命な一年草型生活環を進化させた。一年草の生活環は基本的に発芽と開花の季節的タイミングを制御することで成立している。本研究では、冬季一年草の生活環進化の遺伝的プログラムの解明を目指し、以下の研究成果を得た。 1.秋発芽タイミング決定の生態生理機構 冬季一年草ミドリハコベの秋発芽のタイミングは、夏期間、埋土種子の発芽の上限温度を土壌温度範囲の下限値よりも数℃低く保つことで決定されている。モデル植物のレタスでは、発芽に不適な高温に置かれた種子はアブシジン酸の生合成と感受性を高めた。ジベレリンは代謝を促進することで種子内アブシジン酸レベルの低下に働くが、温度は内生ジベレリンレベルに影響を与えなかった。したがって、冬季一年草種子はアブシジン酸の生合成、代謝、感受性を介して温度応答することにより、最適な発芽の季節タイミングを決定していると結論される。さらに、アブシジン酸生合成の鍵酵素9-cis-epoxycarotenoid-dioxygenase遺伝子をレタスmRNAからクローニングした。冬季一年草の生活環進化に本遺伝子発現の温度応答性獲得が関与しているかどうかの解析が待たれる。 2.一年草型生活環成立の生態機構 冬季一年草ナズナの生活環制御におけるバーナリゼーションの役割を調べた結果、登熟期種子バーナリゼーション、発芽後種子バーナリゼーションおよび緑植物バーナリゼーションに比べて未発芽種子バーナリゼーションの花成誘導効果が大きかった。未発芽種子バーナリゼーションが誘導された埋土種子から春に発芽した個体は速やかに開花して一年生型となるが、当年度生産の種子から春発芽した個体は開花にいたらず夏季に枯死するか越年生型となった。以上から、ナズナの一年生型生活環の成立にとって未発芽種子バーナリゼーションが決定的な生態要因であると結論される。
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