研究概要 |
低温・貧栄養環境に対する常緑広葉樹の適応的性質を解明するために,富士山山地帯の溶岩地のアカマツ林において亜高木層を形成するソヨゴとアセビ,及び比較のために落葉広葉樹のミズナラについて,微環境,薬群動態,生理生態的諸特性,シュート成長,物質生産過程,栄養塩経済を調査した。また,常緑性の生態学的な意義をより一般的に論じるために広葉樹以外の常緑植物に研究対象を拡大し,上層木のアカマツと,亜高山帯に生育する常緑草本を調査した。今年度明らかにされた主な点は以下の通りである。 1.12月と3月では気温5℃以上では常緑広葉樹2種の光合成速度は夏期と同程度になり,低温下で強光阻害は大きいものの回復は速かった。アセビはソヨゴにくらべ光合成活性が年間を通して低かったが,生産力は葉の寿命の長さによって補償されて同程度であった。落葉樹に対する光合成生産の有利性はより明確になった。 2.常緑樹と落葉樹では落葉時の窒素の回収率に差はなかった。しかし常緑樹の落葉は葉群の一部だけで起こるので,リターとして失われる窒素量は全葉を落葉する落葉樹に比べてかなり小さく,栄養塩経済はより保存的であると言える。 3.アカマツの葉群は常緑広葉樹と同様に,新しい成長のための重要な窒素供給源であった。葉内の窒素量と光合成活性の季節変化および葉齢による変化を解析した結果,光合成によって使われない窒素が多く含まれており,貯蔵窒素をもつことが示唆された。貯蔵態は不活性化したルビスコと考えられ,貯蔵窒素の実態解明のための研究の発展のきっかけとなった。アカマツの窒素回収率は約70%であり,発達した土壌のアカマツより高かった。 4.亜高山帯林に生育する常緑草本ベニバナイチヤクソウの成長と窒素動態の解析により,常緑であるために可能な早春の光合成生産がきわめて重要であること,葉は窒素のプールとして重要であることが明らかになった。
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