研究概要 |
本年度は,陸上生態系と水界生態系における腐食流入の重要性を評価するために,以下の調査を行った. 1.腐食連鎖由来の飛翔昆虫類が造網性クモ類に与える影響 まず,造網性クモ類が生食連鎖由来と腐食連鎖由来の生物にそれぞれどの程度依存しているか,またそれは季節によって,ハビタットによって,さらに網構造によって,どのように異なるかを明らかにするために,以下の調査を行った.房総半島南部の森林内,林縁,草地において,10種程度のクモの餌メニューを季節を通して調べた.その結果,森林内では草地に比べて腐食連鎖に依存する割合が高いこと,円網種で腐食連鎖への依存度が高いこと等がわかった.次に,腐食連鎖から陸上へ流入する飛翔昆虫を実験的にコントロールすることで,造網性クモ類に与えるボトムアップ効果を調べる予備実験を行った.その結果,地面にシートを敷いた6m×6mサイズの囲いを設置することで,土壌性飛翔昆虫の流入をかなり防ぐことができることがわかった. 2.森林から流入するリターがザリガニに与える影響 埼玉県中部に多数点在する農業用溜池において,ザリガニの個体数,現存量を標識再捕法により推定し,また周辺の森林から流入するリター量をトラップにより推定した.その結果,ザリガニ現存量とリター流入量の間には正の相関が見られた.次に,ザリガニの食性を調べるために胃内容分析を行った.その結果,胃内容物中に占めるリターの割合は60-70%と高く,またリター流入量の多い池ほど高かった.さらに,リターのみを用いて飼育実験を行ったところ,小型個体では明らかな成長が見られた.以上のことから,溜池のザリガニは外来のリターに依存していることが示唆された.
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