研究概要 |
これまでに世界で18種のアリで2倍体オスの存在が確認されている.それらの種のいくつかには,3倍体や4倍体個体もいることが報告されている.一般に2倍体オスには生殖能力がないと言われてきたが,3倍体個体は2倍体オスの子どもである可能性がある.理論的に,2倍体オスは近親交配を行う種や既存コロニーが新女王を受け入れる種,つまり2次的多女王性種や社会寄生種において高い確率で生産されると考えられる.本研究では,多女王性種と杜会寄生種を中心に,広範なアリ種において2培体オスの検索を行うと共に,カワラケアリを中心に2倍体オスの存在意義について実証的に明らかにしようとした. これまでの研究で,カワラケアリにおいて2倍体オスが頻繁に出現することが明らかになっている.本研究で,2倍体雄には生殖能力があり,3倍体メスを産生することが明らかになった.また,野外で採集されたオスに3倍体のものがあった.3倍体ワーカーは体サイズが2倍体ワーカーより有意に大きいこと、これらの行動には差が見られないことが分かった。3倍体オスの成熟分裂の観察では、3倍体精子の形成を示唆するデータが得られた。3倍体オスにも生殖能力がある可能性がある。 広範なアリ類において2倍体オスの存在を検索した.その結果,単女王性アリ4種のうち1種で,多女王性あり13種のうち3種で2倍体オスの存在が確認された.これらのうちハダカアリ類6種はすべて多女王・多巣性のコロニーを形成するが,兄弟姉妹同士の交配においても2倍体オスは出現しなかった.これらの種においては,2倍体オスの生産を抑制するなんらかの機構があると思われる.ハダカアリの社会構造を確定するための作業の中で,マレーシア産の一種にこれまでに知られていなかったオス2型,無翅オスと短翅オスを発見し,それらの繁殖生態を研究した.
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