広島県太田川河川敷のヤハズソウ群落を対象に、Fujiyoshi et al.(2000)の方法より、エルゴステロールを指標にして、根外の菌糸を含む全VA菌根菌バイオマスの推定を行なった。まず、野外群落からヤハズソウの根を定期的にサンプリングし、根内のエルゴステロール量を求めた。一方、ポット栽培条件下で、ヤハズソウと野外群落から集めたVA菌根菌胞子を用いて菌根を合成し、定期的にサンプリングして根と土壌中のエルゴステロール量を測定した。野外の根内のエルゴステロール量と、ポット栽培における根内外のバイオマス比(植物根:土壌中)、および菌糸体のエルゴステロール含量から、野外群落のVA菌根菌バイオマスを推定した。 野外に生育するヤハズソウ根内のエルゴステロール量は、月日の経過とともに増加する傾向があり、開花期(8月)では個体当たり4.96μgであった。また、ポット栽培で求めたVA菌根菌バイオマスの根内外比は、1:2.3(植物根:土壌中)であり、菌糸体のエルゴステロール含量は0.54mg/gであった。以上の結果より、野外8月の全VA菌根菌バイオマスは、個体あたり30.3mgと推定された。このVA菌根菌バイオマスは、ヤハズソウの根乾重の43%、また、植物群落内の全土壌有機炭素量の3.6%に相当した。ヤハズソウ群落においてVA菌根菌バイオマスは、宿主由来の炭素の大きなシンクであることが明らかになり、群落内の植物の炭素経済や土壌炭素フローに大きな影響を与えている可能性が示された。
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