病原体と宿主の共進化動態の解明と病原体のコントール

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12640617
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 佐々木 顕 九州大学, 大学院・理学研究院, 助教授 (90211937)
• キーワード: 共進化 / 宿主抵抗性 / 病原体ビルレンス / 遺伝子対遺伝子相互作用 / ポリオ根絶計画 / 強毒復帰株 / マラリア / 殺虫剤抵抗性

研究概要

栽培植物における病原菌抵抗品種の開発は、抵抗性を打ち破る病原菌突然変異体の出現によって失敗に終わる例が多い。赤痢菌や結核菌に対する抗生物質投与が多重薬剤耐性菌を生み出し、治療を著しく困難にすることもよく知られている。これらの例に共通するのは、抵抗品種の導入や抗生物質の投与といった防除・治療計画が病原体の進化を考慮に入れていない点である。
宿主抵抗性と病原体の病原性(ビルレンス)の共進化過程の集団遺伝学・疫学モデルを基盤として、病原体の対抗進化の可能性をあらがじめ見越した根絶・防除計画を立案し、防除効果やリスクを数量的に評価することを目標として研究を進めた。(1)植物の抵抗性と寄生性菌類の病原性の間にみられる遺伝子=遺伝子相互作用のもとでの軍拡競争的共進化過程を解明し、抵抗品種の混殖、多重抵抗品種の導入などの防除策の効果を共進化動態モデルの上で解析し評価した。(2)同様の解析を病原性バクテリアの薬剤耐性について行った。栽培植物の場合と異なり、公衆衛生の視点からの利益と患者の利益とは一般に食い違うことがあるため、多価値評価基準を導入した。
(3)病原性復帰突然変異を考慮したポリオ根絶計画については、生ワクチン株からの一定の割合で病原性復帰株が生じる過程を取り入れて、生ワクチン接種停止後に病原性復帰株の流行が起きるリスクを確率モデルに基づいて予測した。また先天性免疫不全グループがワクチン由来株のリザバーとなり、流行リスクが増大する危険性を検討し、ウイルス根絶確率を最大にする不活ワクチン接種計画を提案した。(4)マラリアと日本脳炎、デング熱を例に媒介蚊の吸血動物(家畜とヒト)選択性を利用した根絶計画(zooprophylaxis)を媒介蚊の動態とヒトと家畜における感染動態にもとづいて解析し、媒介蚊の殺虫剤抵抗性の進化による根絶失敗を許さない防除が成功する条件を理論的に明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] Boots,M.and A.Sasaki.: "Why are insect diseases so virulent? the evolutionary dynamics of local infection and global reproduction in host-parasite interactions"Ecology Letters. 3. 181-185 (2000)
• [文献書誌] Haraguchi,Y.and A.Sasaki: "Evolution of parasite virulence and transmission rate in a spatially structured population "Journal of Theoretical Biology. 203. 85-96 (2000)
• [文献書誌] Sasaki,A.: "Host-parasite coevolution in multilocus gene-for-gene system."Proceedings of the Royal Society of London B. 267. 2183-2188 (2000)
• [文献書誌] Sasaki,A.and Y.Haraguchi.: "Antigenic drift of viruses within a host : A finite site model with demographic stochasticity"Journal of Molecular Evolution. 51. 245-255 (2000)
• [文献書誌] 佐々木顕: "空間非同調の生態学:ホストパラサイト共進化系を中心に"日本生態学会誌. 50. 85-96 (2001)
• [文献書誌] Sasaki,A.and G.de Jong: "Density dependence and unpredictable selection in a heterogeneous environment : Compromise and polymorphism in the ESS reactin norm"Evolution. 53. 1329-1342 (1999)