研究概要 |
熊本県天草下島の富岡湾砂質干潟(干出幅300m)ではハルマンスナモグリ(甲殻十脚目,以下スナモグリと記す)が優占している。スナモグリは干潟ベントス群集のkey speciesである。1989-1994年の各6月の密度を平均すると,高潮帯で570,中潮帯で670,低潮帯で1200個体/m^2が安定して生息していた。しかし1995年以降密度が減少し,2000年にはそれぞれ200,150,350個体/m^2となった。また本干潟では,1995年からアカエイの摂食痕が観察されるようになった。本研究では,スナモグリ個体群に対するアカエイの捕食圧を推定し,前者の凋落要因となりうるか否かを検討した。アカエイの活動は2000年6月から大潮干潮時に継続調査している。干潟の岸から沖に向けて20X300mの調査ベルトを2本設け,さらに中を10X10mの方形枠に分けた。摂食痕に目印をつけ,翌日,目印のついていない摂食痕を楕円とみなし,長軸と短軸を記録した。また,6-9月に摂食痕内と,その近隣でアカエイによる攪乱を最近受けていない場所のスナモグリ密度を比較した。密度は干潟表面に開口する巣穴数から推定した(巣穴2個で1個体)。アカエイの摂食痕は6月-2001年2月現在まで観察されている。摂食痕の長軸が15-50cm未満を小,50-80cm未満を中,80-150cmを大とするとき,摂食痕内でのスナモグリの減少率は高潮帯では小66%・中68%・大78%,中潮帯では小57%・中62%・大74%,低潮帯では小65%・中63%・大81%であった。アカエイの摂食痕は7-8月の調査日に最も多く観察された(1日間に高潮帯で3.0,中潮帯で2.7,低潮帯で3.7個/100m^2)。1995年当時にこれと同じ攪乱が2カ月間毎日加えられたと仮定すると,この間に高潮帯では約75,中潮帯では約70,低潮帯では約280個体/m^2のスナモグリが減少したことになる。これがすべて捕食されたとすれば,アカエイの捕食圧はスナモグリ個体群の凋落要因に100%なりうる。
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