研究概要 |
1979年以来、熊本県天草下島の富岡湾砂質干潟では,ハルマンスナモグリ(甲殻十脚目)個体群が干潟全体にわたり高密度で安定して生息していたが,1995年以降激減した.これは,最近急増したアカエイの捕食圧と基質撹乱によるものであることが昨年度までの調査で明らかになった.今年度は,アカエイよる大穴の穿孔に対するベントス群集全体の応答について調査した.エイ穴には周囲の砂泥が流入し,次第に埋まる.エイ穴ベントス個体群の夏期における短期的変化(1日〜2ヵ月)を各種の移動性と基質内の生息深度の観点から検討した.全てのエイ穴は5日目までに埋まった.優占種17種中,調査日のいずれかにおいて,14種で負,8種で正の有意な影響が検出された.最優占種数種の応答は次のようであった.ウメノハナガイモドキやイポキサゴなど表在性で移動性の低い種は,攪乱直後に特に大きく減少し,回復に1カ月を要した.スナモグリやマルソコエビなど移動性の高い埋在性種は,いったん減少後2週間以内に回復した.クーマ類やニホンドロソコエビなど移動性の高い埋在性デトリタス食者は一時的に増加したが,1ヵ月後にはもとのレペルに戻った.ナギサスナホリムシやParaphoxus sp.などは移動性の高い埋在性種であるにもかかわらず,減少後最後まで回復しなかった.しかし,これらの種の応答によるギャップダイナミックスは,干潟全体の群集変化とは別の時空間スケールの現象として捉えなければならない.本干潟においてイボキサゴと附随種[捕食者(ヒラムシの仲間)・寄生者(イボキサゴナカセクチキレモドキ)・空殻利用者-(テナガツノヤドカリ)]3種は1986年に絶滅したが,最近回復が確認された.その幼生供給源は天草下島東海岸の2大干潟(茂木根・本渡)にあることが明らかになった.
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