研究概要 |
プレフォーメーションとは,生育シーズンの前に芽の中で行われる形態形成のことである。急速な初期成長を可能にすることから,生育可能な期間が短い環境では特に重要であると考えられている。しかし一方でプレフォーメーションは,次のシーズンに展開する器官の数をあらかじめ限定する可能性があり,そのために環境の年変動に対する植物の反応に遅れが生じるという指摘もある。したがって極域のような変動環境において,プレフォーメーションの果たす役割は熟考を要する課題である。本研究では,北極圏に生育するムカゴトラノオを材料として,プレフォーメーションの実態把握と,展葉数に与える制約について検討した。生育終了時において地下茎の頂芽には,1シーズンに展開する葉の数の約2倍の葉原基が存在した。しかし,以下に示す観察や実験の結果は,これらの葉原基が必ずしもこの先2年分として存在するのではなく,年ごとの展葉数は環境条件に依存して可変であることを示唆していた。1.生育終了時に存在する葉原基のサイズは,特異的に小さい第一葉を除き,葉位とともに連続的に減少し,明確なギャップは存在しない。2.葉原基の成長過程の観察から,翌年の第一は,当年花茎が伸長を開始する頃まで(生育開始から約2週間後)に決定される。また野外観察から,この時期は当年葉の出葉が終了する時期とほぼ一致する。3.花茎の伸長開始期における摘葉に対して,30%程度の個体は新葉を展開する。4.プレフォーメーションの状態をそろえた集団を,異なる温度条件で栽培すると,展葉数は温度と共に増加する。今後プレフォーメーション自体の環境依存性や,ネオフォーメーションの可能性についても検討する必要がある。
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