本研究は、変動する光環境下における光合成の瞬時的反応の生態学的役割を評価するため、平成12年度から14年度の間に実施し、以下の結果を得た。 まず、正常な気孔反応を持つ植物と開いたままの気孔を持つ植物を使って、ガス交換の測定を行い、光合成誘導反応に対する気孔・非気孔制限を評価した。その結果、気孔の開いたままのポプラ品種より通常な気孔反応を持つ品種の方では、光合成誘導反応速度が早く、気孔制限が少ないことがわかった。 次に、異なる土壌水分とVPD(Vapor pressure deficit)の条件下で変動光に対する光合成を測定し、光合成誘導の気孔制限と光斑利用効率を検討した。光合成測定は、Saussurea superba、Saussurea Katochaete、Gentiana straminea、Ligularia virgaureaとStipa spについて行った。被蔭されやすい匍匐性のS. superbaは、気孔抵抗が他の種より低く、光合成誘導反応への制限が少なかった。また、定常光条件下での強光による光合成の低下は、高いVPD条件下で大きくなることが明らかになった。 さらに、今年度においては上記の実験結果と平成12年度の測定結果から得たデータに基づき、モデルで変動する光環境下での光合成に及ぼす気孔制限と非気孔制限の影響を評価した。このモデルはKirschbaum et al.(1998)のモデルをベースにして、気孔の不均一開閉と温度反応特性を新たに導入し、変動光環境をシミューレーションして、熱帯林林床植物の気孔制限の影響を評価した。その結果、気孔の空間的不均一性が大きいほど、変動する光環境下での炭素吸収量の低下が見られ、気孔による制限が大きくなることがわかった。また、温度が高くなると、気孔の制限も低くなることもわかった。
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