研究概要 |
植物ホルモンの例に認められるように、多細胞生物は細胞間情報伝達物質を介するさまざまな相互作用を発達させてきた。この相互作用に関与する物質を明らかにし、作用機構を明らかにすることは生物学上の重要課題である。細胞性粘菌のプロテインキナーゼERK2(Extracellular Signal Regulated Kinase 2)を欠損する突然変異体erkB-は、多細胞体を形成することができず、細胞の分化も起こらない。しかしながら、野生型細胞と混合すると、erkB-は野生型細胞とキメラ生物を形成し、正常な細胞分化を行うことができる。この事実に基づき、野生型細胞がerkB-の変異を救済する物質を分泌しているかどうかを調べ、1000-3000ダルトンの拡散性の物質が活性をもつことをつきとめた。この物質は、細胞性粘菌を単細胞世代から多細胞世代への移行を制御する新規な鍵物質である。本プロジェクトではこの物質の精製・同定を行ない、作用機構を解明ことを目標として取り組んだ。この過程で、既知の低分子疎水性化合物で、DIF-1として知られる柄細胞誘導活性をもつアルキルフェノンが、erkB-株の形態形成誘導能をもつことを明らかにした(Maeda & Kuwayama,2000;Kuwayama et al.,2000)。また、DIF-1に類似の化合物DIF-2,DIF-3も同様の活性を持つことを明らかにした(山本他、2000年日本植物学会大会発表)。さらに、英国のMRCのRob Kay博士(DIF研究の第一任者)との共同研究により極めて興味深い結果を得ることができた。彼の研究室で作製されたDIF合成不能変異株にも、erkB-株の形態形成誘導能が認められたのである。現在、この物質の精製と同定のために、HPLCによる解析に取り組んでいる。
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