研究概要 |
本研究の目的は、タバコ培養細胞BY-2のホルモン応答を利用して、根冠における細胞分化のモデル系を開発することである。タバコ培養細胞BY-2はオーキシン(0.2mg/l2,4-D)を含む通常の培地中では活発に分裂・増殖し、細胞体積は比較的小さく、色素体は未分化な状態を保つ。一方、オーキシンを除去しサイトカイニン(1mg/l BA)を添加したアミロプラスト分化誘導培地中では、細胞はほとんど増殖せずに体積を増大し、色素体は大量のデンプンを蓄積したアミロプラストに分化する。改変培地における細胞の挙動は、根冠における細胞の挙動と類似していることから、改変培地における細胞の挙動をさらに詳細に調べた。その結果、改変培地では培養が進むにつれてクラスターあたりの細胞数が減少することから、細胞相互の接着が弱く、剥離しやすくなっていることが示唆された。また、細胞から培地中に分泌されるタンパク質量も通常の培養条件に比べ増大していること、培養開始後4日目以降になると死細胞が急激に増加することも明らかになった。こうした細胞の剥離、分泌活性の増大、細胞の短命化などの特徴も、根冠における細胞の挙動と一致する。さらに、根冠において特異的に分泌されるタンパク質の存在が報告されていることから、アミロプラスト分化を誘導した培養細胞でも同様に特異的な分泌タンパク質があるか検討した結果、88kDaおよび44kDaの、アミロプラスト分化誘導条件に特異的な分泌タンパク質を同定した。44kDaのタンパク質(SPCT44と命名)についてN末端アミノ酸配列を決定したところ、いくつかのペルオキシダーゼと非常に高い相同性を示すことが明らかになった。現在、SPCT44を初めいくつかの分泌タンパク質について内部アミノ酸配列の決定を行うための準備を進めている。
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