1藻類や植物の葉緑体に存在するチラコイド膜は、光合成の初期過程の場であり、主にタンパク質と脂質によって構築されている。脂質としては、この膜に特徴的なモノガラクトシルジアシルグリセロール、ジガラクトシルジアシルグリセロール、スルホキノボシルジアシルグリセロール、ホスファチジルグリセロール(PG)が存在し、それらの脂質はチラコイド膜に疎水的な場を提供するばかりでなく、光合成の初期過程を担っている多くのタンパク質複合体の活性発現および安定化において重要な役割を担っているものと考えられている。しかし、チラコイド膜に存在する各脂質の生合成系がどのように制御され各脂質が光合成の初期過程においてどのような特異的な機能を担っているかについては未だに謎である。 本研究では、ラン藻Synechocystis PCC6803から遺伝子操作により、チラコイド膜に唯一のリン脂質として存在するPGの合成欠損株を作製し、その変異株と野生株との光合成の特徴を比較することにより光合成におけるPGの特異的な機能を解析した。その結果、(1)PGがこのラン藻の増殖に必須であること、(2)PGが光合成の光化学系2の反応中心におけるQ_AからQ_Bへの電子伝達において重要な機能を担っていること、(3)PGが光合成の光阻害の修復に必要であることが明らかとなった。一方、高等植物であるシロイヌナズナについてもPGの合成が欠損した変異株を分離し、PGの機能について解析した。PGが合成できない変異株はアルビノの表現型を示し、葉の形態にも異常が見られた。また、6、7枚の本葉が形成したところで、生長が止まった。これらの結果は、PGが高等植物の発生や生長において重要な機能を担っていることを示している。
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