申請者は、これまで酸性温泉からpH0-3の強酸性で生育する紅藻チアニジウム(Cyanidium Caldarium)を単離し、その生理・生化学的研究を手がけてきた。その結果、外液pHが強酸性であるにもかかわらず、この藻の細胞内pHは「強力なプロトンポンプの働き」により中性付近に厳密に維持されていることを発見した。また、最近この紅藻より、細胞膜プロトンATPase遺伝子の単離に成功した。その塩基配列の解析より、調節領域であるC末端は真菌類とも植物類のどちらとも相同性が認められなかった。この領域の独自性こそが、チアニジウムの耐酸性に大きくかかわっている可能性がある。そこで、紅藻チアニジウム(Cyanidium caldarium)のプロトンATPase遺伝子導入により、通常pHにて成育する生物種が耐酸性を獲得できれば、生物の耐酸機構を明らかにできると考えている。 シロイヌナズナに関してはすでに形質転換に成功しており、遺伝子導入株の遺伝学的、生化学的な解析に加え、酸性培地での発芽実験、葉への酸性液の噴霧実験を行うことにより、野生株よりどれだけ耐酸性を獲得したかを評価中である。まず遺伝子導入株の各組織より、全タンパク、DNA、mRNAの精製を試みている。タンパク質レベルでの発現を確認するために、チアニジウムプロトンポンプ特異的ポリクロナール抗体(チアニジウムプロトンポンプの細胞内に大きく突出した親水性部分の塩基配列を大腸菌での高効率発現ベクターであるpETに組み込み、大量発現し、現在ウサギに免疫中)を作製中である。さらに酸性培地での発芽実験、葉への酸性液の噴霧実験を行うことにより、野生株よりどれだけ耐酸性を獲得したかを評価中である。まだ、実験の初段階ではあるが、pH3の酸性発芽培地における発芽実験ににおいて、野生株の発芽率は20%であるのに対し、遺伝子導入株は80%以上が発芽した。植物体の成長全般に渡る耐酸性が確認できれば、極低pHで生育する農作物を作出したこととなり、農業分野への貢献も多大であると考えられる。
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