研究概要 |
種子の発芽は、休眠性と環境条件により決定される。温度は発芽の季節を決定する重要な環境要因であり、種子の温度反応性が休眠性の年変化に伴って周期的に変化することが知られている。本研究では、種子発芽の温度による調節機構を分子レベルで解明することを目的とし、発芽の温度反応性を指標とした突然変異体の選抜と解析を行った。20,000系統のT-DNAタグラインから5系統の高温耐性発芽突然変異体の選抜に成功し、これらすべての系統で種子の休眠性が低下していることを明らかにした。TRW124-4を除く4系統はいずれも劣性変異であり、正常な遺伝子は高温条件での発芽および休眠性の低下(後熟)を抑制的に制御する働きを持つと考えられた。TRW71-1は種皮色と高温耐性発芽に母性効果を示し、遺伝的相補性検定からtt7の対立遺伝子であることを明らかにした。本研究により、1)発芽の温度反応性と休眠を繋ぐ遺伝因子の存在を明らかにし、2)温度による発芽調節機構には、胚と種皮の両者が重要な役割を果たすことを示唆した。 TRW134-15とTRW187の種子はABA低感受性を示し、TRW187が既知のABA非感受性変異であるabi3の新たな対立遺伝子であることを明らかにした。既知のABA欠損、およびABA非感受性突然変異体種子も高温耐性発芽を示すことから、ABAが発芽の温度反応に深く関与することを示唆した。野生型種子では、34℃で吸水した種子のABA量が22℃より多いこと、ABA合成阻害剤により高温阻害が緩和されることから、種子は高温によるABA合成の制御機構を持ち、発芽制御に関与することを示唆した。TRW13-1の変異遺伝子は第1染色体の下腕に座乗することを明らかにし、temperature resistant germination 1(trg1)と命名した。TRG1は未知の遺伝因子であり、マップベースクローニングによる遺伝子の単離と解析により、発芽制御機構の解明に大きな役割を果たすと期待される。
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