研究概要 |
本研究の目的は、光化学系II複合体の立体構造を解明するため、好熱性らん藻Thermosynechococcus vulcanus (旧名Synechococcus vulcanus)より単離・精製し、結晶化した光化学系II複合体の全構成成分を同定し、そのうち、遺伝子配列が未知のものについては、その遺伝子をクローニングし、配列決定することである。電気泳動、酸素発生活性及びTOF-MASS測定により、結晶化された光化学系II複合体は少なくとも13種の膜蛋白質と3種の膜表在性蛋白質を含むことが分かった。この内、数種のサブユニットについてはその遺伝子配列が未定であるが、かずさDNA研究所により近縁の好熱性らん藻Thermosynechococcus elongatusの全ゲノム配列決定が行われ、その結果がまもなく公開されることとなったため、T.vulcanusの構造解析に利用可能となった。従って、本研究の後半では、個々のサブユニットの配列決定よりも、光化学系II複合体の結晶構造解析に重点を置いて研究を進めた。位相を決定するため、多数の重原子誘導体を作製・解析し、そのうち有効な位相情報を与える誘導体を数種見つけ、光化学系II複合体の構造を3.7Å分解能で解析した。その結果、ドイツのWittらにより報告されたT.elongatus8の3.8Å分解能での光化学系IIの構造と比べ、表在性12kDa蛋白質の位置が新たに同定された。 また、酸素発生反応を直接触媒しているMnクラスターについて、そのリガンドが3つ以上あり、そのうちの一つが反応中心D1蛋白質のC末端であることが示唆された。これ以外にも、各電子伝達成分間の相対距離や、ルーメン側に突出していることが示唆されているCP47,CP43のループ構造の一部について、より詳細な情報を得ることができた。
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