アブシジン酸(以後ABA)受容体の遺伝子を同定する目的で、ABA結合阻害剤を用いてシロイヌナズナよりABA認識の特異性が変化した突然変異体のスクリーニングを試みた。ABA結合阻害剤としては、ブラシカでその活性が確認されているPBI-51(以後ARIと呼ぶ)の報告があり、これを使用することとした。このARIを用いて二通りの突然変異体選抜を試みた。一つは、ARIをABA結合阻害剤として認識するような突然変異体の探索である。突然変異を誘導したM2世代種子約50万の種子を対象にARI存在下でABA非感受性を示す変異体を選抜した。その結果、幾つかの候補が得られたが、後の選抜でこれらはARI非依存的な突然変異と判明した。もう一つはARIをABAと認識するような変異体の選抜である。約50万の種子を対象にARI存在下で発芽できない変異体を経て8ライン選抜した。これらは全てABA高感受性を示すが、今までABA高感受性変異として報告のあるera1やein2とは異なる突然変異であることが判明し、新奇のABA関連突然変異であると考えられる。さらに、目的とする突然変異体の選抜効率を上げるために、aba2変異株を用いて同様な選抜も試みた。現在までに、数十の突然変異体候補を得た。これらの突然変異体の原因遺伝子が同定されれば、受容体を含めABA情報伝達系路の理解に大きく貢献できると考えられる。 また、これらの突然変異体の選抜過程で、エタノールに高感受性を示す突然変異geko1を分離した。突然変異の原因遺伝子をマッピングにより同定したところ、GEK1遺伝子は新奇の遺伝子で植物と古細菌にのみ保存されていることが判明した。植物が持つ特有の機能を担っている遺伝子ではないかと考えられるが、今までに植物と古細菌でのみ見いだされた遺伝子の例はなく興味深い。
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