本研究の目的は、被子植物の受精について、重複受精後卵細胞が第一分裂するまでの卵細胞の変動を細胞学的に捉えることである。12年度において接合子の形態変化を、13年度ではオルガネラとそのDNAの変動に着目して追跡した。ゼラニウム(Pelargonium zonale)の開花2日目の、柱頭が開裂した花にhand-pollinationし、受粉後24時間までの胚嚢を2〜3時間毎に固定し、テクノビット-DAPI法と電子顕微鏡法で観察して次の結果を得た。ゼラニウムの未受精卵は珠孔側に大きな液胞があり、細胞の合点側にchromatinがほとんどdisperseした大きな核を含む細胞質が占めている。核の周辺部には多量のDNAを含む巨大ミトコンドリアと、多量のデンプンを含む色素体が約45個ずつ散在している。受粉後3時間で花粉管は一方の助細胞に入り2つの精細胞を放出し、5-6時間で精細胞と卵細胞の核との融合が観察される。卵細胞は次第に縦長になり、受粉後7-10時間で液胞は核の周辺部に移動し、やがて卵核は細胞の中央への移動を開始する。12-15時間で液胞が消失し、18-20時間で核の分裂が始まる。この過程で巨大ミトコンドリアは次第に変形し、分断され、第1分裂時には数百の小さい球形のミトコンドリアになる。これはVIMシステムでのmtDNA量の測定による結果である、受精後のmtDNA量の段階的な減少と一致した。一方アミロプラストも受粉後10時間でデンプンが消失し、ほとんどチラコイドの無い色素体に変換する。この様に受粉後24時間以内で卵細胞のオルガネラが大きく変動し胚発生に備えることが明らかになった。電子顕微鏡での観察では、細胞質のリボソーム、oil drop、、ゴルジ体の未受精卵における不活発な状態から、受精後第一分裂に至るまでの間に、ERの発達、多量のoil dropの集積、ゴルEジ小胞の発達、ミトコンドリアの分裂、アミロプラストのデンプン消失と原色素体への変換等、短時間の間に急激に進行した。またこれらのオルガネラは2細胞期初期に既に不均一な分配が見られ、胚の分化が胚発生の出発点ですでに始まっていることが捉えられた。一方裸出胚嚢をもつトレニアで、培養胚嚢に対する花粉管誘導の実験を行い、助細胞の特異的な誘導能を確認した。
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