本研究では、ヤツメウナギとメクラウナギの腺下垂体ホルモンについて、主として形態学的手法により産生細胞を同定するとともに、腺下垂体ホルモンの分子や遺伝子を同定することをめざした。当初の計画を上回る成果をあげることができた。まず、1)ヤツメウナギ下垂体から成長ホルモン族の遺伝子をクローン化した。そして、その部分ペプチドの抗体を作成し、免疫組織化学的に存在部位を検索した。陽性反応は、主葉背側のサケやサメの成長ホルモン抗体陽性細胞に一致して検出された。さらに、ヤツメウナギ下垂体から当該タンパク質を単離し、肝臓のインスリン様成長因子(IGF)の生産促進作用を調べた。その結果、当該タンパクの投与により肝臓のIGFmRNA量が有意に増加したことから、当該タンパクがヤツメウナギの成長ホルモンであることが明らかになった。2)北米産のヤツメウナギPetromyzon marinusの個体発生に伴う腺下垂体ホルモン細胞の出現時期や細胞密度の変化を免疫組織化学的に調べた。材料として、幼生期、変態期、変態終了直後、寄生期、産卵期のものを使用した。その結果、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が基礎的な生命維持活動に関与していること、黒色素胞刺激ホルモン(MSH)が体色変化に関与していること、成長ホルモンが成長促進に関与していること、生殖腺刺激ホルモン(GTH)が生殖腺機能の調節に関与していることが、それぞれ示唆された。3)メクラウナギの腺下垂体がGTHを分泌している確かな証拠はないが、免疫組織化学的にGTH陽性細胞が観察される。そこで、クロメクラウナギParamyxine atamiを材料に、腺下垂体と生殖腺の機能連関を調べた。その結果、生殖腺の発達した成体では、よく発達した腺下垂体をもっており、多数の細胞がGTH陽性反応を示したのに対して、生殖腺の未熟な個体では腺下垂体の発達も悪く、GTH陽性反応も弱いことから、メクラウナギ腺下垂体がGTHを分泌している可能性が示唆された。
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