研究概要 |
下垂体前葉細胞の機能は正中隆起に終末する視床下部の神経分泌細胞で作られたホルモンにより,下垂体門脈系の血管を介して調節されている。近年,血管形成因子として血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor.VEGF)とその受容体系が,重要な役割を演じていることが見出された。本研究では,下垂体機能維持に重要な役割をしている血管系構築の分子機構を解明する一歩として,ラット下垂体におけるVEGFの発現時期と発現細胞の同定を行った。 ラットの成体と胎児のVEGF局在は免疫組織化学法とinsituhybridization法(ISH)を用いて調べた。ラット胎児は15.5日胚でラトケ嚢前壁内に血管が侵入するといわれているので,15.5日胚を用いた。げっ歯類で同定されている全てのVEGF isoformsは共通したエクソン1-5,8をもつので,抗体作製にはVEGFのエクソン2-3の一部をペプチド合成し,抗原とした。また,ISHに用いるRNAプローブは,VEGFエクソン3-4の一部を増幅するプライマーを設計し,そのプライマーを用いたRT-PCR法で得たcDNAをテンプレートとして合成した。 今回,ラット下垂体におけるVEGFは免疫染色およびISHで検出されなかった。しかし,同じVEGFプローブを用いたノーザンブロット法では,ラット下垂体前葉で発現量は低いがVEGFを検出できた。このノーザンブロット法でVEGFの発現量は,肺,腎臓,小脳,大脳,子宮,下垂体の順で検出された。このことから,免疫抗体法,ISHでVEGFが検出されないのは,VEGFが発現していないのではなく抗体やプローブの感度の問題あるいは検出条件によるものと考えられた。
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