研究概要 |
視床下部-下垂体系の情報伝達経路である血管系の構築メカニズムおよびその系統進化を血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor : VEGF)を手がかりに解析を進めた。免疫組織化学的手法と蛍光標識ゼラチン灌流法により血管とホルモン産生細胞の時間・空間的配置を明確に示すことができた。ラット下垂体前葉ホルモン産生細胞は視床下部-下垂体系における血管新生に依存しないで発生分化することが示された。ノーザンブロット解析では,下垂体前葉のVEGF発現は肺,肝臓,腎臓、脳ほど高くなかったが,in situ RT-PCR法によりラット下垂体発生に伴うVEGF mRNA発現細胞を同定することができた。VEGF発現は胎齢15.5日の下垂体吻側部に初めて観察され,胎齢18.5日で減少した。また,前葉腹側部においてVEGF陽性細胞は,胎齢15.5日から胎齢17.5日にかけて少数観察され,胎齢18.5日では細胞数が増え前葉腹側部全域に多数観察された。下垂体門脈は吻側部で胎齢13.5日より観察され,また胎齢15.5日で前葉に進入した血管は,胎齢16.5日で第二次血管叢として前葉腹側部全域で観察されるようになった。この結果は,VEGFは前葉における第二次血管叢の発達を誘導するが,門脈系形成には関与しないことを示唆している。in situ RT-PCR法と免役染色法を組み合わせることで,胎齢18.5日のVEGF発現細胞の一部は副腎皮質刺激ホルモン細胞であり,ホルモン産生細胞がVEGF分泌能を有することが示された。同様の知見は,ウシガエルの下垂体発生でも観察された。門脈系の発達していないニジマスと門脈系が確立したウシガエルのVEGFの部分塩基配列を決定することができ,視床下部-下垂体系の血管構築の機構を解明するための基盤が確立された。
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