分裂準備帯は、植物の細胞の分裂直前に出現する、微小管が細胞表層に帯状に並んだ構造である。分裂準備帯は前中期に消失するが、分裂準備帯の存在していた位置に細胞板が確実に挿入されるため、細胞板の挿入位置に関する情報が分裂準備帯の位置に残ると考えられている。どのような形で分裂準備帯に位置情報が蓄積されるのかを解明するためには、分裂準備帯にどのような種類の小胞が、どのくらいの頻度で存在しているか明らかにする必要がある。本研究では、加圧凍結したタマネギ子葉表皮細胞を用い、まず、超薄切片を用いた定量的析を行った。その結果、分裂準備帯領域においては、分裂準備帯以外の領域に比べて小胞が有意に高い密度で存在することを明らかにした。さらに7nmの三次元解像度を持つ超高圧電顕2軸トモグラフィー法を用いて、分裂準備帯における小胞の形態を詳細に観察することにより、クラスリン被覆小胞と、内容物の電子密度が高く明確な被覆を持たない小胞(濃小胞)の2種類があること、クラスリン被覆小胞の直径はほぼ均一なのに対し、濃小胞の方は大きさが均一でないこと、また、その分布はクラスリン被覆小胞より内側まで存在することが分かった。試料の調整の仕方によっては、濃小胞の被覆がクラスリン被覆小胞の被覆が一部こわれかけている状態とも思われるものもあることから、濃小胞がクラスリン被覆小胞の崩壊過程の段階のものである可能性は考えられる。この点は今後さらに検討が必要であるが、分裂準備帯にクラスリン被覆小胞がたくさん存在することは、ここでエンドサイトーシスが活発に行われていることを示唆する。これらの観察を元に、エンドサイトーシスと分裂準備帯における位置情報蓄積機構との関係に関するモデルについて検討した。
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