研究概要 |
Sox遺伝子群は、哺乳類における雄決定遺伝子(Sry)のDNA結合領域に極めて相同性の高い遺伝子で、現在、約30の遺伝子が見つかっている。その中でSox9遺伝子は、哺乳類及び鳥類においては、生殖腺の初期分化期には雌雄どちらでも発現するが、やがて雄特異的に発現するため、雄化に深く関わっていると考えられている。Sox9遺伝子は、哺乳類、鳥類、爬虫類で単離されているが、両生類では単離されておらず、また、その役割も不明である。本研究は、両生類からSox9遺伝子を単離し、この遺伝子の両生類の性決定における役割を明らかにすることを目的としている。 本研究において、両生類(ツチガエル)からSox9遺伝子を初めて単離することに成功した。また、Sox9蛋白にはふたつのアイソフォーム(α、β)があり、α型は、482のアミノ酸から成るが、β型は、α型蛋白のN末端側、217アミノ酸が欠損した蛋白で、DNA結合領域を欠くことが分かった。Sox9蛋白にふたつのアイソフォームがあることを見出したのは世界で初めてである。ツチガエル成体組織におけるSox9α,βの発現は、成体10組織うち、精巣と脳に見られたが、卵巣には見られなかった。精巣では、Sox9はセルトリ細胞で発現していた。発生過程におけるSox9α、βの発現についてRT-PCR法で解析したところ、尾芽胚(st.16)から発現しはじめ、性分化初期から中期にかけて雌雄両方で発現することが分かった。この発現パターンは、雄特異的な発現を示す哺乳類や鳥類と異なっていた。 両生類(ツチガエル)の性分化は雌雄性ホルモンによって大きく支配される。雌性ホルモンを幼生期に投与すると機能的な性の転換が起き、卵巣を形成している個体が精巣を形成するようになる。そこで、雌個体に雄性ホルモン(テストステロン)を投与し、Sox9α、βの発現を調べた。その結果、テストステロン投与によってSox9α、βの発現が有意に上昇することが分かった。このことは、雄性ホルモン支配下の性分化カスケードにSox9α、βが深く関わっていることを示している。今後は、雄性ホルモン支配下のおけるSox9α、βの発現調節機構を解明する予定である。
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