脊椎動物の性決定及び性分化は性染色体及び常染色体上に存在する多くの遺伝子が関わっていることが分かっている。最近、SRYのDNA結合領域(HMGbox)に類似したアミノ酸配列をもつ多くの遺伝子群(Sox ; SRY-related HMG box)が単離され、常染色体にあるSox9も哺乳類の性決定や性分化に重要な遺伝子であることが判明した。しかし、この遺伝子の働きが脊椎動物で共通か、或いは両生類、爬虫類、鳥類、及び哺乳類の各動物群で異なるのか明らかではない。本研究は両生類の性決定及び性分化におけるSox9の役割を明らかにすることを目的として行われた。本研究において、両生類(ツチガエル)からSox9遺伝子を初めて単離することに成功した。また、Sox9蛋白にはふたつのアイソフォーム(α、β)があり、α型は、482のアミノ酸から成るが、β型は、α型蛋白のN末端側、217アミノ酸が欠損した蛋白で、DNA結合領域を欠くことが分かった。Sox9蛋白にふたつのアイソフォームがあることを見出したのは世界で初めてである。ツチガエル成体組織では精巣と脳にSox9αとβが発現していた。精巣では、Sox9はセルトリ細胞で発現していた。発生過程におけるSox9α、βの発現についてRT-PCR法で解析したところ、尾芽胚(st.16)から発現しはじめ、性分化初期から中期にかけて雌雄両方で発現することが分かった。この発現パターンは、雄特異的な発現を示す哺乳類や鳥類と異なっていた。両生類(ツチガエル)の性分化は雌雄性ホルモンによって大きく支配される。雄性ホルモンを幼生期に投与すると機能的な性の転換が起き、卵巣を形成している個体が精巣を形成するようになる。そこで、雌個体に雄性ホルモン(テストステロン)を投与し、Sox9α、βの発現を調べたところ、テストステロン投与によってSox9α、βの発現が有意に上昇することが分かった。このことから両生類の性分化カスケードにもSox9αとβが深く関わっていることが分かった。
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