研究概要 |
〔目的〕 ゾウリムシでは細胞分裂を行うとき、分裂溝の生じる細胞の赤道部付近で盛んに新しい表層単位が形成されるので、ここに表層単位の形成中心があるという考えが主流である(Iftode,et al.,1989,1997)。しかし、我々はこの表層単位増殖領域(各表層単位は2個の基粒体(2bb)を持つ)の後端、すなわち、細胞の後端1/5ほどを占める非増殖領域(各表層単位は1個のbbしか持たない)の直前にある2bbの表層単位こそ永続的に増殖を続けるstem unitsであると考えている(Takahashi et al.,1998)。本研究は、この仮説を実証することを目的とした。 〔研究成果〕マイクロマニピュレーターで細胞を正確に微小手術することができるが、1個体の手術に長時間を要し、効率が悪いので、実験のほとんどは、フリーハンドで手術を行ない、数多くの手術個体を観察する事にした。ゾウリムシは手術に対して極めて脆弱で、成功率は低かったが、それらを、経時的に固定し、Chatton-Lwoffの鍍銀法で染色して調べた。手術個体は手術後少なくとも24時間は分裂せず、それらの細胞後端部に1bb領域は存在しなかった。43時間以後に観察できた手術個体由来の細胞には細胞後端部に1bb領域を持つものと、持たないものが有った。このことは、手術個体が細胞分裂を行い、分裂で生じた前の細胞は1bb領域を持ち、後ろのものは持たない事を示唆している。しかし、形態形成中の細胞の観察が、まだ不充分であるため、後ろの細胞で1bb領域の再生が行われなかったか否かを、さらに確認する必要が有る。 本研究では、この過程を、走査電子顕微鏡(SEM)で、観察することも計画している。そのためには、手術個体を、確実にSEM標本にする事が求められる。そこで、従来行っていた、SEMプレート法に代わるSEMpore法の開発を日本電子の協力を得て行った。SEMpore法はOリングにメンブレンフィルターを張り、そのフィルター上で、固定から乾燥まで行うため、サンプルの喪失が防げ、しかも、極めて良い標本を作製できることが分った。
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