ユビキチン及びユビキチン様タンパク質は、近年様々な細胞現象に関与することで注目を集めている。我々は、精子運動調節に関与する因子を探索してきた結果、ユビキチン/プロテアソーム系がモーター分子のリン酸化調節に重要な役割を果たすことが明らかになった。本年度は、まず、当研究室で最近cDNAクローニングが完了したユビキチン様タンパク質であるsmall-ubiquitin-related-modifier(SUMO1)の生理機能を探るべく、大腸菌で発現したtrout SUMO-1に対する抗体を作製した。間接蛍光抗体法により局在を調べたところ、ニジマス、及びユウレイボヤの精子の核に存在することが分かり、運動制御への関与は否定された。核における局在はドット状であり、核膜孔に局在する可能性があり、精子形成期の遺伝子発現に何らかの役割を果たしている可能性がある。一方、ユビキチン抗体により、ユビキチン及びユビキチン化タンパク質の局在を調べた結果、ニジマス精子にはユビキチンが有意に存在しないことが明かとなった。このことは、ニジマスにおける精子運動制御において、プロテアソームはユビキチン系を介さない機構で関与していることを示唆している。同時に、ユビキチンは精子運動以外の、例えば精子形成に関与している可能性がある。さらに、ユウレイボヤにおけるユビキチンの局在を調べた結果、ミトコンドリアと核の間に存在する小胞状構造に局在することが明かとなった。さらにこの小胞は、高濃度のカルシウムを含有し、精子運動活性化時にカルシウムを放出することが示唆された。また、ユウレイボヤ精子には、ニジマスの場合と異なり、多くのユビキチン化タンパク質が存在し、それらは同時に抗プロテインホスファターゼ2A抗体とも交叉した。以上の結果は、ユウレイボヤ精子において、ユビキチンがタンパク質リン酸化と密接に関与していること、カルシウム/タンパク質脱リン酸化とカップルした運動調節機構が存在していることを示唆している。
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