研究概要 |
平成12年度の8月までに,カイコガ成虫の脳-食道下神経節複合体からゲル濾過,イオン交換クロマトグラフィー,2回の逆相高速液体クロマトグラフィーを経て,夏型ホルモン活性物質(分子量約5,000の酸性ペプチド)を単離することに成功した。そこで,得られた標品によって,プロテインシーケンサーを用いてN-末端のアミノ酸配列の決定を試みた。しかし,期待した結果が得られず,これは同ペプチドのN-末端がブロックされていると考えられた。そこで,同ペプチドのN-末端のブロックを外す操作を行った後に,標品を再度プロテインシーケンサーにかけたが,ブロックを外す際の回収率が十分ではなく,期待した結果は得られなかった。今年度,追加してカイコガ成虫の脳-食道下神経節複合体を集め,再度の精製・単離を行い,アミノ酸配列の決定を行う予定である。 カイコガ成虫の脳-食道下神経節から得られた夏型ホルモン活性物質を,春型成虫を生ずるはずのアゲハチョウの短日蛹に投与すると,その蛹から夏型を羽化することが明らかとなった。これは,我々が精製・単離,一次構造の決定を試みている活性ペプチドが,科を超えた多くのチョウ目昆虫に作用を示す脳神経要因であることが明らかになった。今年度,季節型の発現の決定に夏型ホルモンが関与していないとされている唯一の族であるAraschia属で,夏型ホルモンが関与している可能性を示唆する結果を得た。平成13年度には,Araschia属に本当に夏型ホルモンが存在していないことを確認する実験を予定している。
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