研究概要 |
私達は軟体動物腹足類トコブシの口の筋肉に多量に含まれるミオグロビン(分子量40kDa)が,いわゆる16kDaのタンパク質であるミオグロビンやヘモグロビンの遺伝子から生じたものではないことを発見した.そしてこのミオグロビンが,ヘムを含む機能の全く異なるトリプトファン分解酵素の一種,インドールアミン二原子酸素添加酵素(IDO,42kDa)から機能的に収束進化し,トコブシの中ではミオグロビンとして機能しているという全く新しい事実をつきとめた.この新しいタイプのミオグロビンは,トコブシやアワビ,サザエ等の軟体動物の原始腹足目にのみ分布しており,これらの生物においては通常の16kDaミオグロビンの発現は見られない.本年度は研究の最終年度であるので,これまでの研究結果をまとめる上で必要と思われる補足実験を行ない,研究論文の作成を主眼に置いた.即ち,サザエIDO型ミオグロビン遺伝子の構造を完成させ(Gene),また,アマオブネガイの16kDaミオグロビンの構造と機能の解析を完成させた(Int.J.Biochem.Cell.Biol.).アマオブネガイは原始腹足目でありながら通常のミオグロビンを持ち,IDO型ミオグロビンの進化に深く関わっていると思われる.一方,昨年度に引き続きサザエのIDO遺伝子の探索をgenomicライブラリーを用いて行ったところ,IDO酵素由来と推定される遺伝子の断片を含むクローンを得ることができた.IDOとIDO型ミオグロビンの構造と機能の関連性を知る上ではその立体構造を知ることが必要である.現在,結晶解析を行うためのミオグロビンの大量発現で難航しているが,新しいべクターpET44を用いて,可溶化した状態でサザエIDO型ミオグロビンのリコンビナントタンパク質の発現に成功した.ただし,このタンパク質はヘムを含んでいないので再構成する必要がある.今後,引き続いてこれらの研究を完成させる予定である.
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