単一マウス茸状乳頭味蕾は、約50個の細胞を持つ。この中で、通常1個、多くても3個の細胞だけが味神経と化学シナプスを形成し、脳へ情報を送ることができる。このため、味蕾にあるほとんどの細胞は、味応答発現に直接の貢献はしないと考えられてきた。従来の仮説が正しければ、味蕾細胞のほとんどは、味応答を発生しない可能性がある。私は、単一味蕾を構成する細胞の味応答を同時に測定し、応答できる細胞の数を調べた。 味応答の電気測定は、確立された方法であり、信頼性が高い。しかし、約50個もある細胞の同時測定には、不適当である。一方、電位感受性色素を用いた光学的測定法は、多数の細胞の受容器電位を同時に測定する際には有効である。しかし、光学的測定法は、標本の微小な移動や電位感受性色素の退色などの影響を受けやすい。そこで、まず電気的測定方法で味応答を測定し、光学的に測定可能かどうかを調べた。電気測定の結果、1)マウス味蕾細胞が脱分極性受容器電位、過分極性受容器電位を発生すること、2)用いた電位感受性色素の蛍光強度が、脱分極で増大、過分極で減少すること、3)電位変化の大きさは、電位感受性色素で測定できる範囲にあること、を確認した。 このような予備実験に基づき測定した結果、単一味蕾細胞中に味応答する細胞が少なくとも10個存在することを見いだした。脱分極性受容器電位を発生する細胞は互いに隣接していること、過分極性応答を示す細胞も互いに隣接すること、を明らかにした。これらの結果から、脱分極精細胞群と過分極性細胞群は味神経の出力を制御し、脳に送る前に味情報を処理していると考えた。
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