研究概要 |
本研究は,昆虫において記憶・学習に深く係わるキノコ体の神経回路構築を解析することを目的とする。本年度は,ショウジョウバエの成虫および幼虫のキノコ体傘部に投射する入力ニューロンを免疫組織化学法を用いて検索するとともに,入力ニューロンとキノコ体内在ニューロン(ケニオン細胞)とのシナプス結合関係を免疫電顕法により解析し,次の結果を得た。 成虫:触角葉から内側触角脳経路を経てキノコ体傘部に入力する触角葉出力ニューロンは,コリンアセチル基転移酵素(ChAT)抗体,および小胞性アセチルコリントランスポーター(VAChT)抗体に陽性で,傘部内で大型のシナプス小頭(〜3μm)を形成し,これを取り巻くケニオン細胞の樹状突起にシナプス結合していた。GABA抗体では,α葉や前大脳側角から傘部に投射する繊維束,さらに傘部全域に分布する細繊維に加え,柄部を走向し傘部に達する細繊維群が染色された。GABA抗体陽性の軸索は,触角葉出力ニューロンの終末部(大型シナプス小頭)とシナプスを形成していた。傘部内には大型の有芯小胞を含む軸索終末も散見された。これらの結果から,傘部には,コリン作動性触角葉出力ニューロンの終末部をケニオン細胞やGABA抗体陽性ニューロン,さらに修飾ニューロンの繊維が取り巻いて構成する微小糸球体様の単位構造が多数存在していることが明らかとなった。 幼虫:触角脳経路とキノコ体傘部には,成虫と同様に顕著なChAT抗体陽性染色がみられた。傘部では,ChAT抗体陽性の巨大なシナプス小頭(〜6μm)が数個集まってクラスターを形成し,それぞれのクラスターは傘部周縁部にそって分布していた。 今後は,傘部におけるシナプス結合様式を免疫電顕法により詳細に解析し,それを基に回路モデルを作成し,さらに変態による感覚器官の再構築に伴う傘部神経回路の改変を電子顕微鏡レベルで経時的に解析する。
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