研究概要 |
本年度は,変態に伴うキノコ体傘部神経回路網の再編成過程を経時的に解析した.幼虫型の嗅覚器は変態により成虫型に改変され,これに伴い,キノコ体傘部における触角葉出力ニューロンとケニオン細胞とのシナプス結合の再構築がおこると考えられる.構成ニューロンが少なく単純な構造と考えられる「幼虫型」のキノコ体傘部と,より複雑化し匂い学習や記憶に緊密な関係を持つ「成虫型」のキノコ体傘部の構造を詳細に比較解析することは,匂い学習に関与する嗅覚情報処理システムの基本構造を抽出するうえで有効なアプローチと考えられる。本年度の研究によって得られた結果は以下の通りである. キイロショウジョウバエの蛹期間(囲蛹殻形成後[APF]から羽化まで)は,25℃で約100時間である.本研究では,APF12時間,24時間,48時間,72時間のキノコ体傘部の微細構造を比較解析した.幼虫期にキノコ体傘部の周縁部でみられていた,触角葉出力ニューロンの巨大なシナプス小頭をコアとする微小糸球体は,APF12時間にはシナプス小頭の退縮に伴い消失した.APF24時間には,微小糸球体のコアとなる触角葉出力ニューロン軸索終末部の再膨出が始まり,蛹期のほぼ中期(APF48時間)には未成熟ながら成虫型微小糸球体の形成がみられ,APF72時間には成虫とぼぼ同じ形態を示す微小糸球体がみられるようになった.APF12時間の糸球体構造が消失したキノコ体傘部でも,一部の触角葉出力ニューロンではコリンアセチル基転移酵素(ChAT)抗体に対する免疫活性が維持され,ケニオン細胞とのシナプス結合が保持されていた.これらの観察結果から,特定のコリン作動性触角葉出力ニューロンが蛹期を通してケニオン細胞と機能的なシナプス結合を維持していると考えられ,これらのシナプス結合が幼虫から成虫への長期記憶の貯蔵に関与している可能性も示唆される.
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