神経可塑性は新たな(形態的あるいは機能的な)神経回路を形成するという意味では、成長してからの神経の再分化とも言える。この過程には、ただ単に既存の神経細胞が新たなシナプスを形成するばかりでなく、神経幹細胞からの新たな神経細胞の分化と供給の重要性が指摘されつつある。我々は海馬スライスにおけるtetraethylammonium(TEA)処理による長期増強(LTP)で発現が増大するクローンを検索してきた。神経組織に特異的な遺伝子KW8とHE5は、神経発生初期にも成体でも発現しており、神経可塑性に関与している重要な遺伝子であることが期待される。KW8はhelix-loop-helix領域を持う遺伝子であった。このタンパク質は日本の他の研究グループにてNDRF(Neuro D related factor)として、アメリカのグループでNeuro D2として、我々の報告の数ヶ月後に相次いで発表され、この因子の注目度を伺わせる。現在、ドイツのグループと共同でノックアウトマウスの作成を行っている。 HE5は神経突起伸長作用が培養細胞で見られ、norbinと命名した。最近になり日本のグループから軟骨細胞を刺激しかつ神経に存在する因子としてnorbinはneuro-chondrinと命名された。我々もCOS細胞や神経系培養細胞neuro2aで分泌を確認することができた。また、脳のcDNAをカタログ化するプロジェクトではnorbinは非神経細胞にも存在するとRT-PCRで結論されてしまった。我々の追試では、これは末梢神経に発現しているためであり、norbinは中枢と末梢の神経細胞に特異的に発現していると結論した。ノックアウトマウスを作成を目指しているが、1000個以上のES細胞のスクリーニングを行っても相同組換え体が得られない。技術的な問題と染色体上の特異な領域にこの遺伝子が存在する可能性も考えられる。
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