本研究では、申請者らがクローニングした神経突起伸長因子norbinの中枢神経(脳)と末梢神経(腸管)における機能をノックアウトマウスを用いて解明することをめざした。海馬スライスの長期増強(LTP)に関連した遺伝子として中枢神経と末梢神経の細胞体に発現しているnorbinを特定した。この3年間はノックアウトマウスの作成を目指してきたが、相同組換え体を得ることができなかった。2001年になって、ランダムインサーションによりノックアウトマウスを網羅的に作成するプロジェクトを行っているドイツのGSF-Institute of Mammalian GeneticsのFloss T博士より、norbinノックアウトマウスが得られたことから共同研究の提案があった。このマウスを入手して、神経科学的、薬理学的、生化学的解析を行うことを目的として研究を開始した。 提供されたnorbinノックアウトマウスのゲノムを解析したところ、norbin遺伝子の蛋白質コーディング領域のC末端にインサートが挿入されたものであった。従って、norbin蛋白質のほとんどが発現しており、極くわずかにC末端が欠如しただけの変異マウスであることが見いだされた。N末抗体で発現を検討したところ、発現量と発現領域ともに野生型との違いが見られなかった。また、神経組織を含めてほとんどの組織で形態的には肉眼的観察および光学顕微鏡観察でほとんど野生型と相同であった。極くまれに運動障害を持ったマウスが誕生したが、その出現の規則性は不明であり、また、光学顕微鏡観察では異常を見いだすことができなかった。末梢神経(腸管など)にも異常を見いだすことができなかった。norbinノックアウトマウスは胎生致死の可能性もあり、今後は条件ノックアウト法などを検討する予定である。
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