アブラムシ類(昆虫綱:同翅目)は春から秋にかけて無性生殖によって世代を繰り返し、秋に一度だけ有性生殖を行うのが典型的な生活史である。しかし、こうした典型的な生活史から、単為生殖的な生活史が複数回独立して分化したと推測されている。単為生殖によって集団を維持している種が、どのような系統発生を経て起源し、現在どのような集団構成を維持しているのかを探るのが本研究の目的である。平成13年度は有性生殖種に基づく系統発生パターンを明らかにするために、ミトコンドリア16SリボゾーマルDNAの配列に基づいてTetraneura属の9つの集団を用いて分子系統樹を構築した。本属は形態から予測されていたように、2つの系列に分けられた。ユーラシア全体に分布するTetraneura nigriabdominalisは驚くほど均一な塩基配列を持ち、北米産(ヨーロッパ起源)集団とアジア産集団では1500塩基対を調べても全く違いが見られなかった。このことは本種が急速に広範囲に分布を拡大したことを示している。一方、本種とは形態において亜種レベルの違いが見られるTetraneura fusiformisにおいては、数カ所の配列の違いが見いだされた。これに対して、本州に広く分布する単為生殖種であるColopha kansugeiでは、国内集団を比較した場合、何カ所かで配列の違いが見いだされた。本種はTetraneura nigriabdominalisに比べて、遥かに古い時代から単為生殖を続けており、その結果長期間集団間で遺伝的交流が断たれてきたと考えられる。
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