昆虫類の高次系統の最大の議論はコムシ目の扱いに関わるものである。本研究の目的は、私自身が発展させてきた欠第二触角類(=多足類+昆虫類)の胚と胚膜の機能分化の進化的変遷のシェマの観点から、コムシ目の系統的位置づけを議論することにある。 これまでの予備的研究から、コムシ目は外顎類(=真正昆虫類(=イシノミ類+双関節丘類(=シミ類+有翅昆虫類)))の羊膜様構造を発達させることが明らかになった。上記の胚と胚膜の機能分化の進化的変遷に関するシェマにおいて、羊膜は外顎類の固有派生形質と理解されるものであることから、コムシ目の羊膜様構造が真の羊膜であるなら、外顎類とコムシ目の単系統性が示されることになる。本研究の検討事項として、まず、1)コムシ目の同構造の羊膜性の検証がある。次に、胚と胚膜の機能分化の観点から、2)胚と胚膜の卵膜クチクラ分泌能(胚および胚膜あるいは胚膜のみに由来するか:外顎類においては胚膜のみ、多足類では胚および胚膜に由来)、ならびに、3)胚膜の体形成参加能の有無(胚膜が体形成参加能を放棄しているか否か:外顎類では放棄しているが多足類では胚膜も体壁に分化)の検証が必要である。 今年度は主に上記の内の第2項目、すなわち胚と胚膜のクチクラの分泌能の分業について検討した。その結果、コムシ目の卵膜クチクラは胚盤葉クチクラ、すなわち胚予定域と胚膜予定域の両者に由来すること、また、後期胚の表面には3層の薄いクチクラが分泌されるが、これらは他の昆虫類の胚クチクラに相同なものであり、卵膜クチクラとして言及されるものではないことが明かになった。これらの意味するところは、コムシ目は外顎類が獲得したいくつかの派生形質の内の一つはもたないことになり、上記のシェマにおいて、コムシ目は外顎類と多足類を繋ぐ系統的段階にあることになる。
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