本研究においては、ウニを用いて次の研究を計画した。(1)胚操作技術を用いた胚切除実験により、胚の各部域間で左右性決定の為の細胞間、組織間の相互作用の起きる時期を特定する。(2)左右非相称性関連遺伝子のクローニングを行なう。(3)クローニングされた左右非相称性関連遺伝子の構造とウニ胚発生過程における発現パターンの解析。研究から、以下の結果が得られた。 (1)正中線で胚を切断して双子胚を作り、それらの双子の成体原基形成についての左右性を調べたところ、右半分由来の胚は、常に正常な左右性を示したが、左半分由来の胚は、手術を行なった発生時期により異なった左右性を示した。正常発生において、胚の左右性は、右半分からの指示によって決定される事が示された。(2)脊椎動物で報告されている左右非相称性形成の遺伝子カスケードの最も上流にあるとされる遺伝子invと、最も下流にあるとされる遺伝子Pitx2のバフンウニホモログ(HpinvおよびHpPitx2)のクローニングに成功した。(3)invおよびPitx2ともに、その全長がcDNAとアミノ酸配列で得られ、脊椎動物の遺伝子と比較したところ、いずれも保存性が極めて良いことが判明した。初期発生過程での発現パターンは、RT-PCRとin situ hybridizationによって調べられ、以下の結果が得られた。Hpinvの発現時期をRT-PCR法により調べたところ、この遺伝子のzygoticな発現は孵化胞胚期より上昇し、間充織胞胚期にピークに達しその後発現は減少し、4腕プルテウスにはほとんど見られなくなった。in situハイブリダイゼーションの結果、間充織胞胚から後期原腸胚期にかけて、予定原腸及び原腸領域を含む植物極板に左右相称の発現パターンを示した。4腕プルテウス期以降の後期発生における発現はin situハイブリダイゼーション、RT-PCRともに調べておらず、今後の課題として残っている。Pitx2のバフンウニホモログHpPitxのRT-PCRを行ったところ、HpPitxの発現はmaternalに若干存在するものの、zigoticな発現は16細胞期に強く、その状態が間充織胞胚期まで続き後期原腸陥入期に弱くなり、プリズム期には発現はほとんど見られなくなった。2腕プルテウス期に再び発現が上昇するものの、4腕プルテウス期にはほとんど発現はなくなった。このように二つの発現ピークがあることが明らかになった。in situハイブリダイゼーション法を用いて調べたところ、後期原腸胚期に原腸の先端に発現が見られた。Invモルフォリノによりinvノックダウンを行なうと、胚の遊泳に異常が生じ、繊毛運動に変化の起きることがわかった。
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