日本産モンシロチョウ亜種と英国産モンシロチョウ亜種間の行動的生殖隔離について、生きた両亜種の雌雄を用いて行動実験を行った結果、雌の標本を用いて実験した前年度の結果と一部異なる結果が得られた。すなわち(1)高温型(夏型または白色型)日本産雄は、高温型(夏型または白色型)日本産雌標本と英国産雌標本を並置した場合、ほとんどもっぱら日本産雌標本を配偶者として認識し、英国産雌を無視したのに対し、両亜種の雌雄を混在させて配偶者選択を実験した今回の実験では、およそ日本産雌2:英国産雌1の比率で交尾した。ただし今回の実験では、供試雌が生きた雌である点、両亜種雌とも低温型(春/秋型または黄色型)である点、さらに雄自身も低温型である点、前回の実験と異なるので、これらの点を考慮して考察する必要がある。(2)一方英国産の低温型雄は、低温型(春/秋型または黄色型)の両亜種雌のうち、ほとんどもっぱら(1/11)英国産亜種雌と交尾した。英国産雄が前年度までの結果と異なり、黄色型の日本産雌とほとんど交尾しなかったことは、用いた雄が低温型(越冬蛹由来)であったためか、日本産雌をめぐる日本産雄との競争に敗れたためか、あるいは日本産雌の拒否のためかは、現時点では判断できない。(3)両亜種の交雑個体は、以前の高温型日本産雄×英国産雌の交雑実験結果のように、幼虫がまだら模様を呈することがなかった。すなわち日本産雄×英国産雌5対と、英国産雄×日本産雌1対の交雑個体は、すべて典型的なアオムシの緑色を呈していた。これは今回の実験では両亜種の雌雄のいずれもが越冬蛹由来の低温型成虫であったことと関係しているかもしれない。
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