まず、本研究を行うに当たり必要な有鱗類のサンプルを多数収集し、備品として購入した冷凍庫に保管した。状態のよいサンプルからDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAの全長をカバーする数コの断片をLong PCRにより増幅した。このLong PCR産物を鋳型として、多数のユニバーサルプライマーを用いた短領域(約0.5-1kbp)の増幅を行い、それらの塩基配列を決定した(備品の微量高速遠心機はシーケンス決定実験に用いられた)。最後に、それら短領域の配列をアセンブルすることで、ミトコンドリアDNAの全塩基配列を決定した。この手法を用いて、これまでにテキサスホソメクラヘビ(ホソメクラヘビ科)、カキネハリトカゲ(イグアナ科)など5種類の有鱗類から、ミトコンドリアDNAの全塩基配列を決定できた。従来のクローニングを用いる方法では、クローニングの出発物質として大量のDNAが必要とされること、デリーションミュータントの作成が煩雑であることなどから、1つの生物からミトコンドリアDNA全領域を配列決定するのはかなり大変な作業であった。しかし、本研究の方法を用いればこの作業時間が大幅に短縮され、かつ正確な配列データが得られることを実証できた。ミトコンドリアDNAの遺伝子配置を較べてみると、いわゆる典型的な脊椎動物の遺伝子配置と異なる配置を持つケースがいくつかの有鱗類で見つかった。これらの遺伝子配置変動は、それを共有する生物の系統的近縁性を示す分子マーカーになる可能性があり、さらに詳細な分析を進めている。来年度は、さらに多くの有鱗類からミトコンドリアDNAの全塩基配列を決定するとともに、得られたデータについて分子系統解析を進める予定である。
|