近年、白亜紀の古植物学的発見や分岐分類学の発展および分子系統学の研究成果等により、被子植物の起源と初期進化に関する研究は、急速に展開しつつある。被子植物の炭化化石を良好に保存されている状態でとりだすことができる白亜紀の特殊な条件下で堆積した地層は世界的にも極めて少なく、これまでに、ヨーロッパと北アメリカ東部の特定の地層に限られていた。高橋は、日本各地において、bulk sieving techniques法による被子植物化石の研究の可能性を探した結果、白亜紀の被子植物始源群の花、果実、種子などの化石を含むいくつかの有力な白亜紀の地層を発見し、その中のひとつを上北迫化石植物群と呼ぶことを提案した。日本の白亜からはじめて発見されたこれらの炭化植物は。北アメリカ、ヨーロッパ、中央アジアから報告された植物化石群に匹敵する保存性の良好な植物化石(Mesofossils)である。今年度、報告したのは、上北迫植物化石群の中で、最も、数多く見られた紡錘形の果実化石である。この果実化石は、3-4室からなる子房下位である。それぞれの室に、一つの種子が入っており、背軸側が弁開する。これらの特徴とガクが合着していることから、この果実化石はミズキ目に類縁があると思われる。日本の白亜紀の初期コニアシアンー初期サントニアンから見つかった果実化石は、ミズキ目の中で最も古い化石データであり、現生の被子植物の中の1/3の主要な植物群であるasterid cladeの初期分化群の最少分岐年代を示唆するものである。
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