研究概要 |
野生霊長類寄生ギョウチュウ(蟯虫)類の調査:マダガスカル島産チャイロキツネザル15頭,ワオキツネザル39頭,シファカ6頭の糞便からLemuricola属蟯虫2種を得た.またジャワ中部のカニクイザル37頭,サウジアラビア北部のマントヒヒ25頭を肛囲検査法と糞便検査法で調べたが蟯虫類は検出できなかった.飼育霊長類寄生蟯虫の調査:動物園や研究所で飼育されている霊長類多数を調べ,キンシコウにEnterobius属Colobenterobius亜属蟯虫,ヨザルとリスザルにTrypanoxyuris属蟯虫を検出した.また飼育下チンパンジーにヒト蟯虫Enterobius vermicularisの濃厚感染を証明した.これらの蟯虫は形態観察用に固定すると共に,一部をDNA分析用に処理した.形態観察の結果キンシコウ寄生種は新種であることが判明した(論文投稿中).またヒト蟯虫感染で死亡したチンパンジーの症例に遭遇した.これは非固有宿主における病害性増強と考えられ,共進化の視点から興味ある現象といえる(論文作成中). DNA分析ではヒト蟯虫数匹よりQIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN)にて全DNAを抽出した.このDNAをtemplateとしてsingle primerによるRAPDを実施したところ,いずれのDNAにおいても明瞭なフィンガープリント像が得られ,PCRのtemplateとして適当であることが示された.またミトコンドリアのCO1遺伝子の一部を増幅するdegenerated primerが蟯虫類にも適用できるかをスミスネズミ蟯虫Syphacia montanaとアカネズミ蟯虫S.fredericiで試したところPCR産物が認められ,有望であることが示された. 来年度は野生および飼育霊長類の蟯虫検査を続行し,その形態観察から系統樹作成を目指すとともに,今回得られたPCR産物の塩基配列を決定し,他の蟯虫にも適用できるプライマーをデザインしてこれら蟯虫類のCO1遺伝子の塩基配列を解明する予定である.
|