研究概要 |
霊長類寄生ギョウチュウ(蟯虫)類の調査:昨年度動物園飼育キンシコウから得た新種ギョウチュウはEnterobius(Colobenterobius) pygatrichusとして記載発表した(2002年1月).またボルネオ島サラワク産スローロリスからLemuricola nycticebi,テングザルからEnterobius属Colobenterobius亜属の新種ギョウチュウを得た.Colobenterobius亜属はオナガザル類と共進化した種とみられ,これらの種は宿主との系統比較にとって重要である.さらにマダガスカル島のワオキツネザルからLemuricola bauchoti,野毛山動物園のヨザルからTrypanoxyuris microonを検出した. ギョウチュウ類種分化の研究:ヒトギョウチュウEnterobius vermicularis感染で死亡したチンパンジーの症例を論文発表した(印刷中).またヒトギョウチュウに感染した別のチンパンジーを駆虫しその後3ヶ月間に排泄された多数の虫体を経時的に調べ,E.gregoriiとされていたものが,ヒトギョウチュウの発育過程の幼若時期であることを証明した.さらにヒトギョウチュウとE.gregoriiについてC01,28SrDNAの塩基配列を解明し,両者が完全に同じ配列であることを証明した、これらの所見はE. Gregoriiがヒトギョウチュウのシノニムであることを生態学的,分子生物学的に裏付けるものであり,ヒトのギョウチュウは1種であることを意味し,ヒトギョウチュウ2種説を最終的に否定するものである.これに加えてワオキツネザルのL.bauchotiからDNAを抽出し,C01の塩基配列を解明した. 来年度も野生および飼育霊長類の蟯虫検査を続行し,形態観察に基づく系統樹作成が可能かどうか検証するとともに,塩基配列の解明を他のギョウチュウ類にも広げ,霊長類とギョウチュウの共進化過程を解明して報告書を発表する予定である.
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