研究概要 |
超好熱性Archaeaの系統分類と構成脂質の構造との関係を明らかにするため、本年度はJCMから超好熱性Archaea 6菌株を取り寄せ、嫌気培養を行った。この内、4菌株(Pyrococcus horikoshii,Thermococcus celer,T.guaymasensis,T.stetteri)の培養液から、脂質分析可能な菌体量が得られた。これらの4菌株は何れもThermococcales目に属しているが、Pyrococcus属とThermococcus属との属レベルの間に極性脂質の一次元TLCプレート上のパターンに大きな違いが見られた。しかし、両者とも抽出された脂質の95%以上がリン脂質で構成されており、中性脂質はほとんど存在しないという特徴的な共通性が観察された。これは、高温下での生育と何らかの関係があるのかもしれない。脂質を構成する基本構造(ポリオールにイソプレノイド鎖がエーテル結合したもの)部分は、全ての菌株でカルドアーキオールが主要なものとして検出された。また、アーキオールも全ての菌株から微量成分として検出された。しかしながら、H型-カルドアーキオールについては、Thermococcus celer,T.guaymasensis,Pyrococcus horikoshiから検出されたが、T.stetteriからは検出されなかった。T.stetteriについては、他の菌株に対して至適生育温度が10℃低い75℃であり、生育温度とH型-カルドアーキオールの存在との関係が示唆された。好酸好熱性Archaeaでは、膜の流動性の調節機構の一つとして、イソプレノイド鎖中のシクロペンタン環数(最大4個存在する)を培養温度に依存して増減させることが知られているが、今回の4菌株の85℃の培養ではカルドアーキオールの鎖中には、シクロペンタン環はほとんど検出されなかった。H型-カルドアーキオールは、カルドアーキオールよりも分子レベルでみると堅く、高温下において膜の流動性を減少させる効果が期待されることから、H型-カルドアーキオールとカルドアーキオールの割合を変化させることによる新奇の膜流動性調節機構が存在するのかもしれない。しかし、T.stetteriには、H型-カルドアーキオールが存在しておらず、このものの膜流動性調節機構に興味がもたれる。今後、T.stetteriに系統的に近い種の脂質について重点的に検討する必要性がある。来年度は、更に多数の菌株の調査を予定しており、超好熱性Archaeaの系統分類と構成脂質の構造との関係が種レベルで明らかにすることができると考えられる。
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