1.酵母Saccharomyces exiguus Yp74L-3の分類学的位置付け:野生ホモタリック酵母Yp74L-3は、屋久島の腐敗葉から分離され、糖の資化性・発酵性、高温域での増殖度、薬剤耐性度などの指標から、Saccharomyces exiguusに分類されてきた。筆者は、酵母Yp74L-3のorotidine-5'-phosphate decarboxylase遺伝子を単離し、その塩基配列を決定して、他の数種の酵母の対応する遺伝子情報を用いて、分子系統解析を行った。その結果、この酵母は、パン酵母Saccharomyces cerevisiaeと系統学的に近縁な関係にあることが確認され、続いて、Kluyveromyces属酵母に対して近縁性を示すことが明らかとなった。 2.YCp型ベクターの構築とゲノムライブラリーの作製:酵母Yp74L-3の第10番染色体DNAから動原体配列(CEN10)を単離した。このCEN10の構造は、S.cerevisiaeの動原体コンセンサス配列と有意な相違があった。次に、このCEN10を、Yp74L-3の染色体の自律複製起点(ARS)を有するYRp型のベクターに挿入して、高安定性を示すYCp型ベクターを構築した。続いて、このYCp型ベクターをベースとして、酵母Yp74L-3のゲノムDNAライブラリーを作製した。 3.酵母Yp74L-3のアルファ型性フェロモン遺伝子の単離と解析:上記のようにして作製した酵母Yp74L-3のゲノムDNAライブラリーから、アルファ接合型細胞が分泌する性フェロモンの構造遺伝子を単離した。この遺伝子の構造解析を行ったところ、タンパクのコーディング領域は、S.cerevisiaeの対応する遺伝子の構造とよく似通っていたが、発現調節領域には明らかな相違が認められ、性分化遺伝子において遺伝子発現調節機構には種多様性が存在する事を明らかにすることができた。現在、この調節機構の詳細な比較解析を進めている。
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