研究概要 |
霊長類の胃内消化酵素ペプシノゲンについて、霊長類の主要なグループである新世界ザル、旧世界ザル、類人猿の中からマーモセット、タマリン、フサオマキザル、リスザルなどの新世界ザル、チンパンジー、オランウータン、ゴリラ、テナガザルなど類人猿を選び研究を遂行した。生化学的手法によると、またcDNAクローニングなど分子生物学的手法で解析した。新世界ザル胃にはペプシノゲンA,C成分の他、他動物では新生児にしか見られないプロキモシンが発現していた。各成分は1分子種のみで遺伝子重複は起こっていないと思われた。それぞれアミノ酸組成,pH依存蛋白分解活性,阻害剤感受性により明瞭に区別された.A型ペプシノゲンは旧世界ザル、類人猿と分岐していくにつれ多型化が急速に進んでいた。オランウータンとテナガザルからそれぞれ16分子種,及び9分子種のペプシノゲンを単離することができた.これは遺伝子の重複などの大きな変化が短期間に集中的に起こったことを示唆している。C型ペプシノゲンでは各霊長類で多型は見られなかった。プロキモシン型ペプシノゲンでは、旧世界ザルと類人猿では遺伝子の不活性化が起こり機能が失われていることが明らかになった。新世界ザルでは機能しているが、ウシなど他動物で見られるような胎児期特異的な成分としてではなく、新世界ザルの多様な摂取食物の効率的な消化のためにA, C型成分の補助的な役割を担う成分として機能しているものと考えられた。これらのことは、霊長類の食性の多様化に対応して進化の過程で胃の消化の酵素に遺伝子レベルで大きな変化が起こったことを示している。
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